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蜂蜜パイ/村上春樹  -神の子どもたちはみな踊るより-

熊のまさきちは町に入って、広場に自分の場所を見つけた。
そして『おいしい自然のはちみつ。コップいっぱい200えんです』という札を立てて、蜂蜜を売り始めた。
-文中より引用-

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数ある短編のなかでも特に気に入って何度も読み返している物語です。

大学時代からの親友である淳平、高槻、小夜子は、三人で親密な関係を形作っていました。
淳平は小夜子に対して淡い好意を抱き、小夜子もまた形に表せない思いを淳平に対して抱いていたのですが、その思いを伝えられないまま、ふとしたきっかけから高槻と小夜子が結ばれることになります。淳平は二人の結婚を祝福し、親友三人の親交はその後も変わらず続いていくのですが、数年後、娘の沙羅が生まれて程なくして二人は離婚することになってしまいます。

その後も淳平は数々の形にならない思いを持ち続けながら、時を過ごしていきます。
そしてある夜、寝付けない沙羅のために淳平は「熊のまさきち」のお話を作り話して聞かせることになります。それはたくさんの蜂蜜を手に入れた熊の話なのですが、淳平には自分の生み出した「熊のまさきち」のお話の結末が、自分自身の希望の持てない未来と重なって、ハッピーエンドをうまく思い浮かべることができません。

ある出来事をきっかけに淳平はついにそれまで形にならずにいた結論を導き出します。
「熊のまさきち」の物語の結末もまた、それに伴って素敵な結末を迎えることになります。
村上さんの短編の中でも特にシンプルで現実的な話なのですが、読後には心地よい余韻と共に、大切に思っている(いた)人への気持ちを思い起こさせてくれる物語だと思います。


特に印象深かった言葉を載せておきます。    

「何かをわかっているということとそれを目に見えるかたちに変えていけるということは、また別の話なのよね。そのふたつがどちらも同じようにうまくできたら、
生きていくのはもっと簡単なんだろうけど」



「東京奇譚集」に収録されている「日々移動する腎臓のかたちをした石」と主人公は多分同一だと思うので、そちらも併せて読むとお互いより深く楽しめるんじゃないかと思います。  
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by ILL-NESSTINO | 2007-02-03 16:53 |