偶然の旅人/村上春樹 -東京奇譚集より-
村上春樹さんの本の中にはうまく説明できないけれど、物語の中の何かが心に残り続ける作品があります。そんな感覚が好きで最近気に入って読んでいるのが、「東京奇譚集」に収録されている短編「偶然の旅人」です。
ストーリーはクラシック好きの静かな生活をおくるピアノ調律師の男が、毎週火曜日に通っているカフェで"ふとした偶然"からある女性と知り合うというお話です。
二人の関係性はある部分では相容れないものではあるのですが、その女性との関係は彼に変化をもたらし、そして彼にとって"大切な偶然"を運んできます。
物語が最後まで完結しない、可能性を残した結末にも、ささやかだけれど心地よい余韻が感じられて好きです。また、この作品の持っている静かな雰囲気や主人公の持つ、穏やかな誠実さみたいなものにも、元気付けられているような気がします。
by ILL-NESSTINO
| 2007-01-13 13:40
| 本